情報提供日：２０１０年２月２１日
情報提供者：個人タクシー氏（福岡市）
かれこれ丁度２５年前、大学入学後の夏休み、某アルバイト誌に「大学生募集、中学一年生のテスト採点アルバイト、誰にでも出来ますよ」というフレコミ。
アルバイトの会社は〇研エントランスと語ったエセ学習塾でした。住所通りそこに行くとマンションの６Ｆで、なんとなく臭い感じでしたが、世間を知らない大学一年生でしたので、抵抗なくチャイムを鳴らしました。、
「アルバイト誌を見て応募しました」、「勝手に開けて入ってください」。中に入ると、黒板に長机に折り畳み椅子、応募した数人の学生、学生の中に高校の同級生の女の子がいました。別室に電話オペの若い女性が一人と、店長と称する４０歳ぐらいの中年男性。
店長はこう切り出しました。「君たちは各家庭を訪れ、テスト用紙を渡す。明日また訪れ採点する」。これが簡単な仕事かと思いきや、これからが本筋です。「採点結果で母親と子供を同席させろ、オヤジを入れさすな。オヤジが在宅の場合、避けろ、子供の苦手箇所を指摘して不安を煽り、親には『このままだと希望の高校は難しい』とさら不安を煽ったところで、子供に『キミ、苦手を勉強すれば成績が上がるよ』と希望を与えてやる。子供がやりたいと言えば親は嫌と言えない。『教材で、苦手部分を学習すればいい』と言え。そしてクレジット用紙の出番だ。『お支払いは奥様のへそくり価格』と言えば、クレジット用紙にスラスラ書いてくれて銀行印を押してくれる。それが君たちの仕事だ」。
要するに、軽自動車の新車が買えるぐらいの教材を売ってこいというアルバイトです。「１週間後に、中学３年分の段ボール一杯の教材を目にしてやる気をなくそうが、知ったこっちゃない」とうそぶく店長。大学生に悪徳商法の片棒を担がせるに違いないと思い、このアルバイトは私に向いていないと、他のバイトを探しました。
アルバイトの説明が終り、下宿に帰って一服していると、下宿のおばさんが「〇〇さん電話だよ」。この当時携帯電話がなかった時代で、自室に電話を引く金もなかったので、電話は当然取り次いでもらうしかありません。電話に出るとあの店長でした。「〇〇君かね、あのアルバイトしてくれるかね、キミは見込みがある。給料もはずむよ。イヤだったらいんんだよ、その代わり…」、半分脅迫めいたもので断れる状況ではありませんでした。断れば何をされるか分かりません。「じゃあ明日、頼んだよ」。
翌日、そのマンションに行きました。事務所にはやはり、数人の学生達がいました。昨日の同級生の女の子もいました。タバコを吸っていると店長が現れました。「諸君おはよう！ よくぞ来てくれて有り難う。この仕事は中学１年生をもつ家庭を訪問し１学期まとめのテストを配布して、翌日に訪問し子供と一緒に採点する仕事だ。そこまではバカでもできる。そこから仕事の技量が試される。高給を取れるか惨めになるか、キミのやる気次第だ。トップの学生にはハワイ旅行に招待する。頑張ってくれ」。
次は仕事の要領の練習です。学生３人が前に出て、セールス役と子供、母親役です。セールス役「こんにちは〇研のエントランスと申します。採点、回収に参りました」。母親役「どうぞお上がり下さい」（実際は追い出されるほうが多い）。採点が終り、子供に「キミは英語なんだけど、英単語綴りが間違っているよ。英語が難しくなると高校受験では英語と数学が取れなくなる。このままだと高校行けないよ」と不安を煽ります。「お兄ちゃんがいい方法を教えてあげる、英単語が弱いなら英単語を勉強すればいい、それなら成績が上がるよ」とどん底に突き落とした後に希望を与えます。母親には「このままだと志望の高校は難しいですよ」。
母親が「うちの子はまだ中学１年生ですし、高校受験はまだ先の話ですし」と切り出したら、「いえ、お母さん、いまから考えておかなけばいけません。福岡県の公立高校選抜方法は、当日の学力検査と中学３年間の学校の成績で決まります。学力検査の結果が良ければいいですが、当日のコンディションによっては思うようにいかない場合があります。そこで学校の内申点いかんによって…」と資料を見せながら母親に不安を煽ります。子供がやりたいと言いだしたら、「子供がやりたいと言っているのだから」とクレジット用紙を出します。必要事項を書き終り銀行印に捺印したら、最後に「クレジット会社から連絡が入ると思います」。店長は、今考えたら恐ろしい事を、世間も知らない大学生にさせていたのでした。
説明が終り、各学生に担当地域を割り当て、早速テスト用紙をもらって仕事です。私の担当は東区の某団地でした。玄関にはセールスお断りのステッカー。チャイムをならすと化け物みたいな母親が出てきて「うちは結構です」とバタン。５０枚中配れたのは２５枚でした。店長に報告すると「まぁこんなもんだよ」。
数日すると同級生の女の子が一件契約を取ったが辞めていきました。その子に話を聞くと「あなた、このバイト辞めて。私あの店長からホテルに連れて行かれそうになったの。私だけじゃないのよ、このバイトの女の子は何人か連れていかれた」。断ったら「クビになってせいせいしたわ」。あの店長セクハラ癖があるらしい。
私は一件の契約も取れず、店長から「キミ頑張りたまえ」と言われる始末でした。ある中学生の女の子の家庭訪問で、もうすぐで契約が取れる段階でこの家の姑らしいババァが「この家で勉強の面倒を見ます。今から夕飯なのでお引き取り願います」。店長から「おまえバカかアホ死ね、おまえクビだ」。私もこの仕事に嫌気がさし、いつ辞めようか考えていたので、丁度クビになってよかったと思いました。 この会社も消費者センターの苦情が多く、警察の手入れがありました。
そして数十年の歳月が流れて、私がタクシーの運転手なりたての頃、某繁華街で夜中客待ちしてたら、あの店長が酔っ払って私のタクシーに客として乗り込んで来ました。店長は「〇〇までやってくれ」と行き来をつげた後、爆睡しました。行き先と別方向にあるＩ峠に車を走らせました。
店長が起きて、「おい、運ちゃんよ、何処にいきようとや、景色が違うやんけ」、「店長、私のこと覚えてますか、アホバカと罵られたバイトの学生ですよ」、「何の真似だ」、「私と一緒に死にましょうか、今までの悪事を精算するために」、「俺が悪かった、許してくれ」、「じゃあ、お客さん家まで行きましょう、もしこの事を陸運局や会社にチクッたら、地獄まで追いかけますよ」。